スティーブ・ジョブズ
- 作者: ウォルター・アイザックソン,井口耕二
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/10/25
- メディア: ハードカバー
- 購入: 58人 クリック: 5,270回
- この商品を含むブログ (324件) を見る
- 作者: ウォルター・アイザックソン,井口耕二
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/11/02
- メディア: ハードカバー
- 購入: 67人 クリック: 1,859回
- この商品を含むブログ (220件) を見る
一昨年に死去したAppleの創業者にして前CEOであるスティーブ・ジョブズ氏の自伝。
前後編に分かれていますが、自分は電子書籍版で購入して読みました。
マスコミ嫌いでこれまで自伝やプライベートについては頑なに語らなかったジョブズが、自分の死期を悟ったのか唯一公認の自伝として記されたのがこの本。
ジョブズの生い立ちから死に至るまで、良いことも悪いことも赤裸々に綴られている。
上巻は、ジョブズの誕生からエレクトロニクスに興味を持ち、盟友のウォズニアックとガレージからAppleを起業、Apple II、Macを生み出した後に自ら招き入れたスカリーによってAppleを追放され、NeXTとPixarを起業し、ディズニー映画「トイストーリー」を生み出すまでの話。
ジョブズと言えば昨今のiPhoneやiPadが世界的に大ヒットしたころに名前を知った人も多いだろうが、結構キャリアの多くは失敗と苦労を繰り返した人物でもあり、上巻はそんな彼の闇の部分がよく見える。
幼い頃に養子に出され、自分は実の親に捨てられたと言う思いが強く、自分のアイデンティティを求めるためにインドの文化や日本の禅に傾倒したり、LSDなどのドラッグを積極的に肯定したり徹底した菜食主義にこだわるなど、偏執的な部分も強くそれが彼の強烈な自信や、情熱に繋がっているのでは無いかという分析で進められていく。
また、ジョブズを語る上で欠かせないキーワードとも言えるのが「現実歪曲フィールド」と呼ばれるもの。
目的を達成させるためなら、現実や事実をねじ曲げてでも無理矢理実現させる
そんな、ハリウッド映画のご都合主義の賜物みたいな力がジョブズにはあるのだ、と言う。
それは時として良い方向に働くこともある(Mac開発時のエピソードなど)が、悪い方向に働くこともある。
彼が婚外子であるリサを頑なに自分の娘と認知しなかった場合にも現実を見ようとしない個性が発揮されている。
上巻では、自分が理想とするコンピュータの完成のために、あらゆる事を犠牲にして、執念とも言える情熱でApple IIやMacintoshを作り上げていく所は圧巻だった。
ただ、ジョブズのあまりにも強烈すぎる個性と人を罵倒したり自分で全てのルールを作り上げる利己的な部分は正直尊敬できるとは言えない。
言い方は悪いが
「ジョブズは類い希なイノベーションの才能があったからこそ歴史に名を残す人物になれたが、その才能がもし無ければただの奇人変人」
としか言いようが無い。
下巻では、ジョブズ追放後業績が悪化していたAppleに復帰するところから、iMac、iPod、iTunesを次々と生み出し、そしてiPhone、iPadでついに頂点に上り詰める所が描かれている。そして、癌の発病と闘病、そして自身の死を見つけるラストへ。
ここではiPhoneのプロジェクトよりも前に、タブレット型コンピュータのプロジェクトの方が先にあった事が書かれている。
つまり後のiPadの元になるアイデアはiPhoneよりも先んじて計画されていたと言うこと。
最初からそこまで見込んでいたかどうかは分からないけど、結果的にiPhone→iPadの順にリリースされたのはスマートフォンとそれに続くタブレット市場の拡大に当たっては絶好のタイミングだったと思う。
そして2012年、彼の死後1年後にiPadを小型化したiPad miniが発売されているがこれもタブレット市場の小型化ニーズにマッチした絶妙なタイミングだった。iPadに関してはジョブズの生前は「7インチ級は出さない」と明言していたことから、iPad miniのリリースがジョブズの遺志に沿うものだったかは分からないが、結論から言うと彼の死とその後のiPad miniの発表ですら計算され尽くして居たのでは無いかとすら思うほどだ。
ただ、全体を読んで解せなかったのが一点だけある。
1984年にMacintoshの初代がリリースされるとき、当時のAppleは米国最大のイベントとも言えるスーパーボウルのハーフタイムで、リドリー・スコットを監督に迎えた歴史的なCMで大々的にMacintoshを宣伝した。
このCMではジョージ・オーウェルの「1984」における「ビッグ・ブラザー」を当時のIBMになぞらえ徹底的な管理主義、全体主義からAppleのMacintoshが解放すると言う象徴的なイメージを「作り上げた」。
しかし、そのイメージに反してMacintosh、その後のMac、そしてiPod、iPhoneも徹底的に中身をいじらせない秘密主義を貫き通した。ビッグ・ブラザーを打倒するはずだったAppleは最初から新たなビッグ・ブラザーになりたかったのでは無いか?
と思う。
別に今のiOSの徹底管理体制が悪いとは思わない。これはこれできちっと統制が取れていれば秩序を保てる。
ただ、一方で徹底的に自由を貫こうと言うポリシーにも一理はある。
そう言う意味で、今のiOS=AppleとAndroid=Googleの対決は良い意味で対象的とも言える。
強烈な個性を持ったカリスマとも言えるジョブズが亡くなった後のAppleが今後Appleらしさのアイデンティティをどのように維持していくのか、不安と期待をもって見続けていきたい。
ジョブズは人間としては決して尊敬できない人物ではあるが、少なくともAppleと言う企業とその製品に関しては心から敬意を表したい。