Re:RXJ Station

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ハーモニー/伊藤計劃

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

電子書籍版で読了

 

若くして亡くなった伊藤計劃氏の事実上の遺作。

 

直接的な言及は無いが、作中の時間的には氏のデビュー作である「虐殺器官」の後の時代を描いているとみられ、事実上の続編とも言える。

 

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

 

世界的な大混乱「大災禍(メイルストローム)」で人口は激減し、壊滅的な打撃を受けた世界から既存の政治形態を持つ「政府」の機能はほぼ崩壊。

 

健康こそが、最大の価値であり、生命の維持が社会の共有資産(リソース)であることが常識となっている社内。

WatchMeと呼ばれる生体管理システムを体内に組み込み、「生府」と呼ばれる健康管理機能が統治の単位となる。

 

国連の中でもWHOに当たる組織が最大の権力を持ち、医学が全ての産業の中心となる。

 

人々はWatchMeやそれに依存する生活設計の様々なシステムにより、病気や苦痛を味わうことが殆ど無くなった。

 

酒はもちろん、刺激物であるカフェインを含む珈琲ですら飲むことを憚られるような世界となった。

 

霧慧トァン、御冷ミァハ、零下堂キアンはそんな世界を疑問に思う女子高生だが、とある事件で3人は死にかけ、ミァハだけが姿を消す。

 

それから何年か経ってトァンはWHOの螺旋監察官となり、世界の紛争地帯の調停に当たっていたが、世界を揺るがす大事件に巻き込まれていく。

 

 

 

ここでいう「ハーモニー」とは、皆が健康を維持し、親密であることを当たり前とする社会価値観が奇妙な社会的ハーモニーを生み出しているところに由来している。

誰もがWatchMeが実現する健康システムに依存し、犯罪や病気の不安の無い生活を送っている。

 

 

人類の全ての生活を統治し、管理するWatchMeや生府という考え方という意味では丁度今放送中のアニメ「PSYCHO PASS」のシビュラシステムに近いかもしれない。

WatchMeは健康管理を外注化し、シビュラシステムは人々の犯罪傾向を外注化した。

 

本来、人が自分自身の価値基準と責任感でやるべき事を、外部のシステムに依存させてしまう事が当たり前になった世界の違和感とそれがもたらす「自己の意思がどこまで何を判断すべきなのか」と言う事のあやふやさをどちらもうまく昇華して物語にしていると思う。

 

本作品では最後、全く予想もしない結末を迎える。

少し悲しい、そして色々と考えさせられる結末だった。

 

作者の伊藤計劃氏はこの作品を発表して、まもなく亡くなってしまう。「虐殺器官」もそうだったが、彼の作品には常に「生と死」をリアルに、真剣に向き合っている事が分かる。

 

限りある生に対して、彼のありったけの想いがこの作品に注ぎ込まれている。読み終わった後少し涙が出てきた。

 

 

 

余談だが、この本を電子書籍版で読んだが、最初

画面にいきなりXMLタグのような表示が出てきたので、

epubがデコードに失敗したのか?」

と思ったが、そうではなかった。

 

読みながら

「何だかあちこちにXMLの属性タグみたいなのが入って読みにくい文章だなあ」

と、思っていたのだが、実はこの表記ですら、ちゃんと意味があることが最後まで読むと分かる。XMLやHTML等のマークアップ記述言語の知識が無いと分かりづらいけど、この記述に意味があることが分かったときの衝撃はすごかった。

 

この才能が既にこの世に居ないことが本当に残念。