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プロバビリティ・ムーン /ナンシー・クレス

プロバビリティ・ムーン (ハヤカワ文庫 SF ク 13-1)

プロバビリティ・ムーン (ハヤカワ文庫 SF ク 13-1)

最近、新書とかビジネス向け評論とかしか読んでなかったので久々にSF充したくてこれを選んだ。
ナンシー・クレスの三部作長編作品の第一弾。

と言っても元は中編作品を膨らませたものらしいですが。

最初読んだときしばらく世界観が理解できなくて苦労したけど多分こんな感じ。

  • 登場するのは地球人とフォーラー、世界(ワールド)人
  • 全ての生命の元を作った遙かに高度な生命体がかつて存在して宇宙の各地にオーバーテクノロジーなものを残して消え去った
  • 地球人とフォーラーは宇宙の遠隔地間を行き来できる「スペーストンネル」の存在を知っている
  • 地球人とフォーラーは対立しており長いこと戦争状態にある
  • 世界(ワールド)人はおそらく地球よりは技術力的には劣る民族という扱い

この辺の前提を理解しておかないとなかなか話に入り込めない。

また、この小説自体も複数の視点からの話が並行して進むので結構わかりにくい

  • 世界(ワールド)人のエンリ・ペク・プリミディンの視点
  • 地球人の人類学者、バザルガンを中心とした世界(ワールド)人との接触を図り惑星の調査を行う調査隊一行の視点
  • 調査隊の警備、随行員として宇宙空間にいるシリー・ジョンソンなどの地球人軍の視点

の三つが入り交じる。

世界(ワールド)人には「共有現実」という独特の概念があり、世界人同士は「現実」を共有することでお互いを理解し合う。逆に「現実」が共有できなくなると頭痛を起こして苦しむようになる。

と言う特性を持っている。全ての「現実者」が認識としての「現実」を共有しているため世界では戦争や殺人が起こることがない、と言うきわめて特殊な社会を形成している。

バザルガンを中心とした調査隊は世界人とコミュニケーションをとることで彼らの共有現実のメカニズムを理解しようとする・・・

と言うのが序盤の話。



世界人は花を愛でる文化のため彼らの会話の殆どは花や草に関わる言葉で装飾されている。
実際、序盤〜中盤までは殆ど「あなたの花が〜」「〜が咲き誇りますように」とか修辞ばかりで読んでいて結構滅入る。


一方上空では世界の衛星(月)の一つが自然のものではなく人工物であることが分かる。当然世界人にはこれほどの人工物を作る技術を持っていないので、これはスペーストンネルを作ったと思われる先人の遺産の一つと考えられていた。

この月は実は強力な兵器となる未知の力を秘めており、フォーラーと敵対関係にある地球人類にとってはこの人工物の謎を解き明かして我が物とする必要があった。


一見全く別々に進行しているように見える二つの異なるストーリーが実は後で関連性を持つように収束していく。


単なる異星人とのファーストコンタクトモノかと思いきや、世界人の「共有現実」のメカニズムと軌道上の「人工物」との関連性が終盤の怒濤のストーリー展開に繋がる。

正直前半のストーリーはゆっくり過ぎて退屈する部分があったが中盤以降の謎解き部分は面白く一気に読み進めてしまった。



量子力学系のSFが好きな人にはお勧めできるかも。

ただ、はっきり言ってこの本、日本語訳がひどい。いかにも英語の直訳的な文章が多くて主語、述語の関係も怪しいところが多く何を言っているのか理解に苦しむところが多かったのも事実。

シナリオ自体は悪くないだけに日本語の文章の質で読み辛くしてしまっているのが残念。

三部作と言うことで残り「プロバビリティ・サン」「プロバビリティ・スペース」と続くらしいのでそのうち読んでみるか。