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伊藤計劃 「虐殺器官」読了

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)


ようやく読み終わった「虐殺器官
著者の伊藤計劃は期待の日本人作家として評価をされつつあったが2009年に肺癌で若くして命を落とした夭折の奇才。

虐殺器官は、一人称「ぼく」が主人公。
9.11以降の世界を舞台にしている。数年前まで全く平和に見えた途上国で次々と発生する大虐殺、大規模内乱。「ぼく」はそんな前線に潜入し、障害を排除しながら反乱の首謀者や関係者を拘束もしくは殺害する。任務達成のために障害となるのであれば少年兵であろうが何であろうが躊躇無く殺害する。
そういう目的の米国特殊部隊に所属している。

「ぼく」が居る時代では戦争は徹底的にシステマチック化されている。民間軍事会社(PMC)が軍事の一部を担い、航空機や投下用のポッドは人工的に筋肉から作られた生体材料で作られる。
米兵である「ぼく」は任務の際にカウンセリングと脳内インプラントの調整により感情を抑制され、冷静に任務をこなすように「調整」される。

そんな、任務の中で毎回ターゲットに選ばれながら巧みに逃亡され確保できない、ジョン・ポールと呼ばれる人物が居た。

そして、やがて彼がいる場所で必ず大虐殺が発生すると言う事実が判明し、彼が虐殺に何らかの関与をしていることが分かる。世界中に大虐殺の種を振りまくジョン・ポールとは何者なのか。


物語の大枠はこんな感じである。
主人公はいわゆる典型的なヤンキーつまり米国人として描かれるが割と内省的でありウジウジと悩む傾向が強い。特に「ぼく」にとってトラウマとなっているのが母の死の際に医学的な延命措置の継続を絶ったことが最後まで彼の心に迷いを残す。

物語全体が「生と死」について、徹底的に掘り下げられている。

命の値段が極限まで安売りされた紛争地帯で日々命のやりとりをする世界と、一方でピザを頬張りバドワイザーを飲みながらモンティ・パイソンを見て惰眠にふける世界。
そんな対極的な世界が交互に行き来するなかで「ぼく」が命の意味、生と死における罪と赦しの意味についてひたすら思い悩み、最後にはある大きな決断をする。

全体的に兵器のギミックや戦争描写には、ゲームの「メタルギアソリッド」の影響が強く見て取れる。


元々作者の伊藤計劃氏が小島秀夫からの影響を強く受けていることは公言しており、後にMGS4のノベライズも担当していることから影響が多いのはやむを得ないんだけど、それにしてもMGSの影響が強すぎる。若干映像描写が狙いすぎで少しいやらしくも感じた。

ただ、文章は非常に丁寧で奥深く、読むものを引き離さない魅力があった。

そして彼が病魔に冒されていたからなのか、分からないが彼自身の死生観は独特であり、かつ真剣に死に向き合っている。日本で平和ボケしている我々には戦場の生々しさは分からないが、この作品ではまさに情景を思い浮かべるかのごとくリアルで残酷で凄惨な戦場のシーンが想像できる。生と死を真正面に考えさせられる作品だった。

これからもっと幅広い活躍が期待できる新人だっただけに、既に故人であることが残念です。