アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風
- 作者: 神林長平
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/03/10
- メディア: 文庫
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日本SF界を代表する作家と言っても良い神林長平のライフワーク的作品「戦闘妖精・雪風」シリーズの第3弾。
- 戦闘妖精・雪風 (1984年)
- グッドラック 戦闘妖精・雪風(1999年)
- アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風(2009年)
と、一作毎に10年近く間が空いてしまう息が長すぎる作品。
私は「グッドラック〜」が出た頃に初代の改版バージョン「戦闘妖精・雪風(改)」と一緒に2作読んでこの作品を知りました。
「アンブロークンアロー〜」は2009年にハードカバー版が出ていましたが、今年になってようやく文庫化されたのでそれを待って文庫版を購入しました。
南極に突如発生した超空間通路から謎の異生体「ジャム」が侵攻してきたが人類は対抗し逆に超空間の向こう側の「フェアリイ星」に拠点を作り侵攻を食い止めることに成功した。
対ジャムとして組織されたフェアリイ軍(FAF)、そしてFAFの中でもジャムの情報収集に特化した「特殊戦」という部隊と高度な自律制御、戦術機能を持つ高性能戦闘機「雪風」とそれを駆るパイロット、深井零を中心にジャムとは何か、人間とは何か、機械と何か、を徹底的に追求していく。
雪風シリーズの大まかな概要はこんな感じかな。
今回の「アンブロークンアロー〜」では前作「グッドラック〜」の直後から物語が始まるのではっきり言って前二作を読んでいないとシナリオの半分も理解できないでしょう。
前2作でもかなり哲学的な文章が有りながらも戦闘機としてのドッグファイトなどアクションシーンも少なくはなかったが、今作ではより思索的、内省的な部分が増えて零やブッカー少佐などが延々と会話を続けていくシーンが多い。
しかも、話がかなり難しく時間と空間を行ったり来たりする部分が極めて多いのではっきり言って多少読む人を選ぶ小説といえるかもしれない。
人間が感じる自意識、生物か無生物かすらもよく分からないジャムの「意識」(のようなもの)、「雪風」を中心とした機械知性体の意識、そういったモノが混然とし融合したり分離したり、同一の時間に複数の場所に存在したり、一瞬で別の場所に「居た」事になっていたり。
とにかく自我と理性、意識というものの曖昧さをこれでもかと言うほど徹底的に掘り下げて書いている。
感覚的にはイーガンの「ディアスポラ」の序章で、情報知性体が自己論理を組み立てていって最終的に「自分」を発見すると言う意識課程を読んだときの衝撃に近いものだった。
これだけ複雑な次章を描きながら、全くストーリーを破綻させず綺麗にまとめ上げているのは、「さすが神林長平」とうならざるを得ない。
初心者にはお勧めしにくいけど、神林長平ファン、時間SF、量子力学SFが好きな人には是非読んで欲しい。
ネタバレはしないけど、結論から言うと今作でも「雪風」は完結しない。
足かけ25年かけて、まだジャムとは何者なのか?が解決していない。
果たして神林長平が生きているうちに完結するのか段々疑わしくなってきた(^^;;
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