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経済学の終わり / 飯田経夫

経済学の終わり―「豊かさ」のあとに来るもの (PHP新書)

経済学の終わり―「豊かさ」のあとに来るもの (PHP新書)


古本屋で購入。読み始めた途端に「????」という違和感に気づく。
内容が古い、よくよく初版日を見てみると1997年・・・

あぁ技術書も年月が経つと陳腐化するけど経済学も10年という時間が経つとこうも変わる物なのかと言うことに気づかされる。



ある程度ふるい内容であることは承知で読み進めてみた。


本書が書かれた1997年頃の日本はバブル崩壊後の不況と不良債権処理に苦しみいくつもの金融機関が破綻した頃。まだメガバンクの統合も始まったかどうかというころでしょうか。


バブルの反省から、旧来の様々な規制を撤廃し経済活動をより自由にしようという「規制緩和」論が跋扈していた頃だったようです。



著者は日本中に広がっていた「規制緩和」の風潮に痛烈に警鐘を鳴らしむしろ規制は強化すべきと言う持論を展開している。


思えばこの後2000年前後のITバブルとその崩壊、2000年代中期のファンド、ライブドアなどの新興企業の肥大化、そして2008年のリーマンショックを見ると、規制の少ない自由競争によりマネー経済が暴走、肥大化し破綻していった未来をある程度警告していたのかもしれない。




本書では、経済学で重要な位置を占める人物を3人挙げ、人間個々人の「豊かさ」とは何かという部分を追求していく。その3人とは

のこと。それぞれ時代が大きく異なるが、彼らが過ごした時代背景を元にどのようにして資本主義や
共産/社会主義の思想が生まれてきたかを解説している。この辺は経済学の歴史の入門としては非常に良いまとめかもしれない。





筆者はこの経済学者3人がそれぞれ「人の豊かさとは何か」を求め様々な提案をしてきたがいずれも問題があり、結局どれも完全ではないと主張している。

  • アダム・スミスはそれまで卑しい物とされていた金儲けを積極的に奨励し、資本主義経済の基礎を築いたが、同時に苛烈な競争社会を生み出し、貧富の差の不平等や行き過ぎた拝金主義による狂気が多くの不幸を生み出している
  • マルクスはその資本主義を痛烈に批判し、平等な共産主義/社会主義を提唱したがその社会システムに様々なほころびがあり、ソビエト、東欧圏の崩壊によって事実上自滅した
  • ケインズは資本主義の欠点を修正するために、完全雇用の実現と福祉重視の国家を実現しようとしたが、国民が安易に政府のサービスに「ただ乗り」、「たかり」するようになり財政赤字が進んで財政を悪化させる


ある意味著者の指摘は正しいとは思うけどケインズについての分析だけは個人的には少し疑問を感じる。





福祉を重視した国家像という意味では北欧のいくつかの国で「高負担だが高福祉」と言う構図である程度の成功は収めていると思う。福祉が厚くなると国民がそれに甘え、福祉に「たかる」ようになる、と主張しているが、国民性にもよるのかもしれないが「高度なサービスを受けるにはそれ相応の負担が必要」と言うことを理解できる民度の高さを持っていれば福祉国家は十分実現できるのではないか?



北欧の経済実態が必ずしも理想といえるかどうかは色々意見はあるだろうけど、個人的にはこれはこれで「アリ」だと思う。


また、著者はこれとは別に、ある種のカネに換えられないある種の公共財は国家が責任を持って負担しなければならないと言う主張をしているが、昨今では社会性、公共性の高い環境問題や少子高齢化などの様々な問題と事業性をうまく結びつけビジネスとして成立させる「ソーシャルビジネス」と言う動きも活発化しており、これも一概に正しいとはいえない。





やはりこの本が書かれた時代と比較して経済は大きく変化はしている。

ただ、人が「豊かさ」を求めていくために何を重視すべきなのか、何が「豊かさ」なのかを見つめ直すには良いきっかけとなる本だと思います。