Appleが定義した新しい「揺りかごの時代」
AppleのMac/iOS向けの開発者会議WWDCの基調講演が昨日行われた
講演の主な内容としては
- MacOS Xの次期バージョン「Lion」
- iPhone/iPod touch/iPad向けのiOS次期バージョン 「iOS5」
- 新規に用意されるクラウドサービス 「iCloud」
の3つ。
LionではiOSでの成果を受けてこれまでのUIを大幅に変更
- ウインドウを意識させないフルスクリーンアプリケーションの標準機能化
- タッチパッドを前提としたマルチタッチジェスチャー
- iOSのメニュー画面を彷彿とさせるLaunchPad
基本的には、iPadのような操作感をMacでも、と言う意図が強い。
丁度同じ時期にMicrosoftが次期Windows8で、WindowsPhone7と同等のタイル型UIを採用しようとしているのに似ているように見える。
ただ、Windows8がそれ自身がタブレット端末に採用されることを前提にタッチパネルを想定したUIとして設計されているのとは違い、OS Xはあくまでも「ルック&フィールはiPad風だが、操作はあくまでもタッチパッド/マウスとキーボード」と言う点が大きく異なる。
一時期はMac自体がタッチパネル化されるのではないか?と言う噂もあったけどそれはジョブズ自信が明確に否定しているので少なくともジョブズの目が黒いうちはMacにタッチパネルが搭載されることはないだろう。
あくまでもMacはMac、タブレットデバイスはiOSに任せると言う分業を想定している。
あとはおそらく従来の「TimeMachine」(自動システムバックアップ)の機能を発展させたと思われる
- 作成した書類などのファイルの更新履歴などを自動で管理してくれる「バージョン」機能
- いちいちセーブを明示的にしなくても自動的に現在の状態を保存してくれる「オートセーブ」
正直なところTimeMachineに関しては、Macを使ってない人にはいまいち魅力が伝わらないけど「常にバックアップをバックグラウンドで取ってくれる安心感」と言うのは非常に良い。馴れてくると「なんでこれに相当する機能がWindowsとか他のOSに無いのか」不思議になってくるほど。
※ごめんなさい、Windowsにも「シャドウコピー」機能がありました。
うっかり、消してはいけないファイルを消してしまってもTimeMachineを使えば1時間前の状態に戻したりと言うことが当たり前に出来る。おそらく「バージョン」や「オートセーブ」もこれらを応用しているんだろうけど、時間やセーブを意識させない機能は地味に便利。これは素直に評価しても良い。
そして、驚きだったのが今回のLionは原則としてDVD媒体としての販売は行わずオンラインストアのMac App Storeでのオンライン販売のみになるんだとか。
iPod touch/iPhone/iPadに採用されるiOS5については
- 従来のNotificationを改善した「Notification Center」の採用
- TwitterをOS標準の機能として内蔵
- Safariの機能改善でタブブラウジングが可能に
- スケジュールやToDoを通知するReminder機能
が追加される。Notificationに関していえば正直「やっとか」という印象があるのも事実。
iOS4で実装されたPush Notificationは確かにバックグラウンドでもtwitterのmentionやアプリのお知らせなどを通知してくれていたけど、有無を言わさず画面の中央に出てきて今使用中のアプリの動作を阻害する他、履歴をたどることも出来ないので通知が大量にきた時には結局直近のものしか分からない、という点では酷い欠陥仕様だった。
この点に関してはAndroidのバックグラウンド通知の方がはるかに合理的で使いやすいので、Android風の通知機能を真似したのは正解だと思う。
ただ、それ以外の機能追加に関していうと、言っちゃ悪いけど「iOSアプリ開発者殺し」と言ってもいいほどの内容だったと思う。
雑誌の自動配信を行うNewsStandはiPad登場以降、雨後の筍のように出てきている書籍、雑誌アプリにとっては脅威だし、ToDo管理を行うReminderはGTDアプリのRemember The MilkやOmnifocusとまるっきり機能がかぶるし標準のカメラアプリが機能強化されたことで存在価値をなくすカメラアプリも多数出てきそう。
この辺に関しては id:yife:20110607 辺りで興味深い集計が行われているので、ぜひ読んで見てください。
この辺の、「俺が考えた便利なアプリのアイデア」が気がついたらOS標準の機能に取り込まれ、開発者涙目って構図は昔Windowsが95,98,2000と、どんどん機能をついかしていくなかでサードベンダアプリで賄ってきた機能をどんどんOSに取り込み、多くのソフトウェアベンダが涙を飲んで消えて行った時の状況を少し思い起こさせる。
そして、おそらくiOS5の最も重要な変更点としては、やはりPC Freeになったことでしょう。これまでiPhoneを新規に購入した場合でも必ず最初にアクティベーションとしてPCやMacに接続させる必要があったしアプリやiOS自体の入手やアップデートも原則はPC/Macを経由して行うことを前提にしていた。
今回、それを不要にしてアプリやOSの更新もふくめてiOS機器単体で出来るようになったのは大きな変化でしょうね。
そのPC Freeを実現する裏付けとして紹介されたのが三つ目のトピックである「iCloud」
既存のMobileMeを置き換えるものになるらしいけど、MobileMeの時点でもアドレス帳やカレンダーなどの一部情報はオンラインで自動的に同期が取れていたけど、iCloudではそれだけでなくアプリや音楽、iBooksなど全般に渡って自動的に同期が出来るようになるんだとか。
これによって、例えばiPhoneで撮った写真が自動的にiCloudに送られ、iPadや自宅のPC,Macでも何もしなくても見られるようになるんだとか。
これらのオンラインストレージ機能としては写真であればFlickrやPicasa、音楽であれば日本はまだ蚊帳の外だけどAmazonのCloudPlayer、GoogleのMusic BETA、オンラインストレージでいえばDropboxやMSのSkyDriveなどもあるけど、それらを全て一つのインフラ、サービスでまとめてしまうと言うのはなかなか無かったように思う。
しかも5GBのストレージを含めて無料で提供するんだとか。(ってMobileMeは有料だったけど一応20GB使えたはず。MobileMeから移行させた場合、不足分の容量はどうなるの?)
iCloudを使うことによってiPhone/iPadとPC/Macが特に意識しなくても勝手に連携する、と言うのはかなり衝撃的だと思う。
あくまでもこれらのサービスは一般ユーザー向け、と言うことで所謂ビジネス向けの「パブリッククラウド」とはターゲットが異なるものの、現在のiPhoneユーザーの数からいえばこのサービスが始まれば世界最大規模のクラウドサービスになるのかもしれない。
結局こう言うサービスが出来るのもAppleがハード(Mac、iPhone)、OS(MacOS、iOS)、サービス(iTunesStore、MobileMe)の全てを一社で手がけているから出来るんでしょうね。
過去にこう言った、ユーザーエクスペリエンスを丸ごと一社で面倒見ようと画策した所もいくつかあったはずです。
かつてのSONYやWindows全盛の頃のMicrosoftがそうでしょう、今だったらGoogleも入るかもしれません。
ただ、
と言った所で、あらゆる部分で全方位的に自社技術でイニシアチブを取れるのって現状Appleしかいないんですよね。結局全ては「Appleが儲かるため」の餌にすぎない訳ですが、全部を「Appleにおまかせ」することを是とするのであればこれほど便利な組み合わせはないでしょうね。
逆に、「一社に全てを委ねることがとても不安」と言う層にはAppleの思想は一生受け入れられないでしょう。
こうしてAppleが用意する「揺りかご」はますます孤立し、孤高の存在となって行くのでしょうか。
iCloudをデジタルハブの中心として見据えたAppleの戦略が今後どのように受け入れられて行くのか、個人的にはとても気になります。